Interview #4

家族でつなげる
金沢桐工芸の昨日・今日・明日

岩本清商店 岩本歩弓

────ヒット作がそんなシンプルな工夫から生まれたとは初耳でした。

お茶は茶托で、お菓子は銘々皿で、というイメージがまだ根強くあった頃に、両方一緒に出すというアイデアがよかったんでしょうね。
お客様からは、加賀棒茶と金沢の和菓子を載せて、金沢の旅を思い出しながら自宅で楽しんでいます、というおたよりや、一輪挿しと小さな置物を載せて飾っています、というお写真などをいただいたり。みなさん、自由な発想で使っていただいているようです。数としてはうちで一番売れている商品になりました。

────蒔絵もかわいらしいものがいろいろありますね。ご自身でデザインされているのですか?

多くは昔の火鉢にあった絵柄の中の、たとえば波千鳥の千鳥二羽だけを取り出してワンポイントの蒔絵にしています。現在、蒔絵は一人の蒔絵師さんにすべてお願いしています。
金沢桐工芸の錆上げ蒔絵は、柄の形に切った紙やフィルムの型の上に砥粉と漆を混ぜて土台にしてそこに蒔絵を描くので立体感があるのが特徴です。

ヒット作「ちょこっとトレー」。蒔絵もワンポイントでちょこっと。その奥ゆかしさがかわいい

新たな郷土玩具「てるてる」。オリジナルのオーダーもできます


────最近は「てるてる」が人気ですね。

金沢には姫だるまという郷土玩具がありますが、それと同じように皆さんに可愛がってもらえる郷土玩具を作りたくて。
雨の多い金沢にちなんで、てるてる坊主から着想しました。
「てるてる」はおひなさまやオリジナルの注文をよくいただきます。家族に似せた家族全員分の「てるてる」のオーダーなどが喜ばれています。

────「てるてる」は自由に展開できて、かつ、どれをみても「てるてる」だと一目でわかるところがいいですね。今後はどんな品を作っていきたいですか?

一つは白木に合う塗料を教えていただいたので、それを使って白い品物を作ろうと思っています。いつも店内が真っ黒なので(笑)。
もう一つは、金沢桐工芸は火鉢を中心に発展してきたので、火鉢を使う暮らしをもう一度提案していきたいですね。
火鉢に興味を持たれるのは意外と若い方が多いんです。かつては暖房器具でしたが、今は卓上の小さな火鉢でお燗をしたり、干物を炙ったり。自分で実際に使ってみたらすごく楽しくって。
火鉢は火鉢まわりの道具類も必要になってくるので、そこらへんも含めてプロデュースしていけたら、と思っています。

ゴージャスな桐火鉢がお店の奥にででーんと鎮座

お店の住所「瓢箪町」にちなんで“ひょうたん”形の品もいろいろ


岩本清商店の店内を見回してみると、豪華絢爛な火鉢のすぐ横に、どことなく愛嬌のある、ふだん使いの品々が並んでいます。
「自分で使ってみたいものを」という等身大の視線で作られた桐工芸には、伝統の技に裏打ちされた自由と軽やかさがありました。
それは、古いものと新しいものが共存し、そして大都市にはないゆとりが随所に感じられる金沢というまちの印象とも重なります。

岩本歩弓さん、内田健介さんのご家族


時代を越えて受け継がれていくものの良さ、底力を身近に肌で感じているからこそできる、柔軟なものづくり─── 既存の品をちょこっと変えたり、昔からのデザインを部分的に生かしたり、地方色を打ち出したり。
自分たちの根っこを大事にした工夫の積み重ねと日常感覚が、現代に伝統工芸を息づかせていくための知恵なのかもしれません。
歩弓さんと内田さんのご長男(5歳)は「中学を卒業したら職人になる!」と早くも宣言しているとか。
火鉢から花生け、そしてトレーへ。暮らしの変遷を受けとめながら、家族みんなでつなげていく金沢桐工芸の伝統。その明日はてるてるが見守っています。
(2015年8月1日 取材・文 白石由美子)

■Shop Data

 

岩本清商店

所在地 金沢市瓢箪町三番二号

電 話 076-231-5421

URL  http://kirikougei.com/

※工場見学可能です(職人不在で対応できない場合はご了承ください)。

■Side Story

 

乙女の金沢岩本歩弓さんは家業のお仕事以外にも、金沢の魅力を発信しているスゴイ人。

住む人の目線から素の金沢を紹介したガイド本『乙女の金沢』は大ヒット。さらにこの本から『乙女の金沢』展へと発展し、各地で「金沢のいいもの、おいしいもの」を紹介するイベントが開かれています。

そのほか、町家のよさを体験してもらうプロジェクト『町家巡遊』などご活躍は多岐にわたります。

金沢を語るうえでのキーパーソン的存在です。

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