Craftsman Interview #3

365日、革に夢中!

加藤 キナ

江戸時代のモノづくりはかっこいい!

─────キナの品は革部分はすべて手縫いですが、手縫いにこだわるのはなぜですか?

キ) 機械にお金をかけて効率よく製作するという考え方もあるけれど、ミシンだとどうやってもミリ単位までしか合わせられないから。そうすると最後のところでどうしても調整できなかったりして美しくないんですよね。

─────ひゃあ、そこまで美しさを追求するんですか?! 他にも、日本刺繍の技法を使ったり、素材を染めたり、細部まですごく凝ったことをしていますよね。

ナ) 牧さんは江戸時代が好きだから、そういった文献からヒントを得ていたり…。
キ) え? 俺、江戸時代好きだったっけ?(笑)
ナ) 煙草入れとかも作っていたじゃない!
キ) 現代のものはだいたいモノを見たらどうやって作っているかがわかる。基本の構造は一緒ですから。だけど、江戸時代の煙草入れとかはどう作っているかがわからない。だからすごく感動する。発想がそもそも違うのかもしれないけれど、技術が途絶えているものもあるし、道具も現代と違う。で、誰にも聞けない。実際に骨董屋で見てもなかなかわからない。

江戸時代の根付に触発されて作った「波紋に鯉」(注文品)。もはや芸術品の域。独学でここまで到達できる人がいるとは驚きです。

貴重な茶利八方革を使用し、江戸時代の煙草入れの製法で作った「おたまじゃくしの薬入れ」。おたまじゃくしは水牛の角、目は象牙。鬼気迫る細かい縫い目も見どころ。


ナ) 骨董屋ですごいの買ってきたりするよね。半分崩壊しているような「えぇーっ?」ていうものを買ってくる(笑)
キ) ちゃんとしているものは壊したくないから、壊れかけたものを分解して調べる。江戸時代はミシンも電気もなかったのにすごいものを作っていて。その圧倒的な違いが好きです。
ナ) 牧さんは知りたいという欲求がすごくある人。だからお客さまが困難な注文をしてきたりすると異常に燃えるんです(笑)。お客さまは軽い気持ちで「できるかな?」と言ったとしても、それが自分の中でスイッチ入っちゃうと、どんどん凝って時間も手間も際限なくかけてしまう。
キ) みんなそういうものなんじゃないの?

─────手仕事をしている人は皆そういう部分があるけれど、価格と手間のあいだでなんとか折り合いのつくところを探していると思いますよ。

ナ) 江戸時代のお殿様みたいにお金に糸目をつけずに作らせてくれるような人がいたら幸せだと思うんですけどね。 牧さんは仕事していないと機嫌が悪くなるんです。たまには仕事サボってどこか一日行こうよ、って言っても、結局仕事場へ行ってしまう。
キ) 仕事中毒というか、365日ほぼ仕事してるね。アル中とか薬だったら人に迷惑かけるけど、仕事ならいいじゃない(笑)。

鹿の角。この状態から鞄やポーチのボタンに仕上げていきます。

オリーブ鹿角ポーチ。鹿角は中に空洞があるため、そこに漆を染み込ませている。


共同作業は真剣勝負

─────具体的な製作の進め方をおうかがいします。まず何かを作ろうという時、二人の間でどういう話し合いで進めていくんですか?

キ) 基本許可制っていうか。「これを作っていいですか?」って聞きます。
ナ) ダメって言ってもどうしても作りたいものは自分で勝手に作ってる(笑)。けれど、一応聞いてくれます。

─────ほぉー、なほさんが許可を出す立場なんですね?!

キ) 逆はあまりないね。素材や大きさを吟味する時も「もうちょっと小ぶりのほうがいいんじゃない?」と言っても「大きいからこそ意味がある」。
「色はこっちにしたら?」と言っても「これじゃ全然いきない」。ほぼ100%却下(笑)。
けれど、第三者的な人が「ちょっと小ぶりな方がいいかもね」と言うと「私もそう思ってたんだよね〜」って。「あれ、俺もそう言ってたよね?」「ん?そうだっけ」と(笑)。
ナ) この人の言うことだと聞けないの(笑)

─────なほさんは見かけによらず頑固なんですね(笑) でも、迷った時には相談するでしょう?

キ) 人間って誰でもそうだと思うけど、相談している時点でもう答が出ていて、期待している答と反対のことを言うと機嫌が悪くなる。一番よくもめるのは「色あわせ」かな。
ナ) 色はいつも白熱してケンカみたいになっちゃうんだよね。お互い譲れないの。

─────結局は人のものになっちゃう品でしょう? それでもそこまで熱くなるんですね。

ナ) 私たちは、オーダー品については顔のみえるお客さまからしかご注文を受けていないので、その方に似合うものとか好みを徹底的に考えて作ります。そこで私の見るお客さま像と牧さんの見方に食い違いがあるとね。この前も裏地でさんざんもめて、何度も仕入れに行ってそれでも納得いかなくて…。お客さまにとっては一回限りのオーダーだから真剣勝負。 もめてから一週間くらい経って冷静になると「あ、牧さんの方がすごくよかった」って思うことはあります。口に出して言えないけど(笑)心のなかではね。
キ) それはお互いあるね。