Craftsman Interview #1

注染が好きだから、
注染でどこまでできるかがやりたいんです

あひろ屋 野口 由

日常品としてなじむ手ぬぐいを

─────(手ぬぐいを見ながら)たとえばこの中で、染めで苦労された例を教えていただけますか?

「凪」は地色と柄の色の差が少ないから、もっと地色を薄くしないと染まっているかどうかわかんないって言われました。染めているときは水に濡れていますから、柄がでているかどうかがわかんないんですって。
「蓮花果托」は若干化学反応を起こして、(柄と地色の間に)縁取りのようなラインが出ました。これは、私は面白かったんですが、染めている人からすると失敗というか、気にされていました。 この手ぬぐいは地を染めている染め屋さんと柄を染めている染め屋さんが異なるので、どういう染料を使っているかがわからずに出来た偶然の産物だったんです。
「麻の葉」のボカシも偶然うまくいったんですが、ぼかさないほうが仕上がりも確実なのに、と言われました。この柄は型紙がダメになっちゃったので、もう一回考え直し中です。
「南天」は枝の部分の細さが限界で。うまく染まらなかったものもありました。
ちょっとしたコンディションで変わるので、いつも同じにはなりません。 染め屋さんも毎回ドキドキされてます(笑)。注染は一回一回が勝負なんです。

オレンジ色の縁取りは想定外の化学反応だった「蓮花果托」

均一でない文様のおもしろさ「箸格子」

線の細さの限界に挑戦した「南天」


─────版下は手描きなんですか?

はい、最初からずっと手描きです。版下の描き方も誰からも教わったことがないけれど、手ぬぐいの大きさに紙を切って、絵を描いて、染め屋さんに持って行ったらそれで作ってもらえたからこれでよかったんだな、と(笑)。この方法は未だに変わりません。

─────そこがコピペでない面白さがあるんでしょうね。「箸格子」も箸と箸の交わり方が全部違っていて、その均一でない面白さに惹かれました。

そういうところはなんとなく気分で配置しちゃってるんですよね。同じパターンが延々と並んでいる柄もよくみかけますが、私はそれが苦手というか。連続柄であってもどこか揺らいでいたりとか、フッと力が抜ける感じが好きです。ビシっと均等に並ぶものは描こうとは思わないですね。

─────あひろ屋さんの手ぬぐいを見ていると主張しすぎない手ぬぐいだなぁ、と感じるんですが、それは意識されていますか?

はい、してますね。色でも柄でも手ぬぐいが主張すると日常品としてなじまないな、使っていて疲れるな、と思うので。
自分の使いたい手ぬぐいを作っているからそうなっちゃうのかもしれないけれど、それが他の人にとっても使いやすさにつながっていたら嬉しいです。

─────手ぬぐいの使い方でお客様に何か提案はありますか?

半分に畳むとちょうどランチョンマットの大きさになるので、うちでは常にそれをテーブルに敷いて使っています。一人一枚ずつ。汚れてもいいし、ちょっと手を拭いたりもできちゃうし。食べ終わった後はそれでガーッと拭いて洗濯機に入れて。私はもうそれがないと不安なくらいです。
台所に立つときもエプロンをしないので、首のところにひっかけて茶碗を洗ったりして、それでついでに手も拭いて。なんでも気軽に使えて、気軽に洗えるのが手ぬぐいの良さですね。

─────これからのあひろ屋さんとしての展望をきかせてください。

地に足つけてがんばりたいです(笑)。当初の思いとしては、おばあさんになったときに、お金はなくても柄はある、というか、仕事があってほしいな、と思うんですよ。なので、続けていくことが大きな目標です。
(2013年2月26日 聞き手:白石由美子)